毎日同じことの繰り返し。
ふと「これでいいのかな?」と思うことがあります。
スマホに手が伸びる
動画を再生し続ける
無意識にお菓子を口に運ぶ
それは、脳の中の “習慣の番人” ムクムクが、今日もせっせと道を守っているから。
でも、ある日そこに、“選択の精霊”トウヤが現れました。
「ねえ、たまには違う道を歩いてみない?」
これは、あなたの脳の中で起きている、ムクムクとトウヤの小さな物語。
習慣と意志力がすれ違うとき、ふたりはどんな会話をするのでしょう?
今回のおはなしは、前回のお話の続編、第2話となります。
👇こちらも読んでね。

1.自動運転のしくみ
~習慣の森とムクムクの正体~
ムクムクと習慣の森
ムクムクは、脳の奥に住んでいる。
その場所は「基底核」と呼ばれていて、毎日の繰り返しを“道”として整えるのが得意だ。
毎日の繰り返しを“道”として整えるのが得意だ。
「ぼくはね、何度も同じことをしてくれると、それを“道”として覚えるんだよ~」
「しかもちょっと気持ちよかったり、役に立ったりすると、その“道”を太くできるんだ!」
ムクムクは、そう言って森の小道を指さす。
スマホを開く順番、朝のルーティン、帰宅後の動き。
それらはすべて、ムクムクが整えた“習慣の道”。
🌿 習慣のしくみ
- 繰り返しが道になる
- 行動が同じ手がかり(時間・場所・前後の動作など)と結びついて何度も実行され、さらに小さな報酬や満足が伴うと、皮質‑基底核の回路が強まり“自動化”が進む。
- 情報処理の効率化
- 自動化が進むと、前頭前野の「考える・選ぶ・やめる」といった意識的な介入は相対的に少なくなる。
- 基底核が「前頭前野のために働く」わけではなく、学習と強化の結果として効率が高まるイメージ。
- 変化には協力が必要
- 新しい道を作る最初の一歩では、前頭前野が計画や抑制でサポートし、繰り返しと小さな報酬が揃うと、基底核がその道を太くしていく。
ムクムクは悪者じゃない。
ただ、「慣れた道を守る番人」として、 今日も静かに、脳の森を歩いている。
「新しい道も、何度も歩いてくれたら、ぼくも覚えるよ~」
ムクムクは、そう言って笑った。
朝の光のなかで、トウヤが小さくうなずく。
「最初は、ぼくが合図を整えて、行動を選ぶよ。小さなごほうびも用意しておく。何度かうまくいったら、ムクムクに任せよう。」
ムクムクは、にっこり笑った。
「うん、そのやり方なら、ぼくの道はどんどん太くなるはず。前と同じ合図で、同じ行動、そしてちょっといい気分。覚えやすいんだ~」
こうして、ふたりは“習慣の森”に新しい小道を一本ずつ増やしていく。
最初は細く不安定でも、合図とごほうびが揃った道は、やがて安心して歩ける“自動運転の道”になる。
小さな補足(物語の外で起きていること)
- 手がかり(cue)の力 同じ時間・場所・前後の行動という“合図”があると道は起動しやすい。合図が変わると、道も起動しにくくなる。
- ごほうびのタイミング 小さくても“すぐに”得られる満足(達成感、心地よさ)があると、ムクムクの道は太くなりやすい。
- 定着のスピードは行動次第 単純な動きは早く、複雑な行動はゆっくり。必ずしも「回数だけ」で決まるわけではない。
2.脳の中の小さな対話
ある朝、ムクムクはいつもの道を歩いていた。
スマホを開く指、同じ順番の朝のルーティン。
「今日もぼくの出番だね~」と、ムクムクはごきげん。
でもその日、前頭前野がそっと声をかけた。
「ムクムク、今日はちょっと違う道を歩いてみたいんだ。」
ムクムクはびっくりした。
「えっ?でも、いつもこの道だったよ?ぼく、ちゃんと覚えてるよ?」
前頭前野は、少し考え込むように言った。
「うん…でもね、最近この道が、ちょっと重たく感じるんだ。」
—
トウヤは静かな声で続けた。 「ぼくが弱っているときは、ムクムクが自動で守ってくれるのはありがたい。 でも、元気なときには新しい道を試したいんだ。」
ムクムクは少し考えてから、にっこり笑った。 「じゃあ、ぼくはその新しい道を見て覚えるよ。報酬があれば、だんだん太くできるから。」
習慣と意志力のすれ違い
- 前頭前野(トウヤ)の役割
- 計画、選択、抑制など“意識的な制御”を担う。新しい行動を始めるときや、既存の習慣を上書きするときに必ず関与する。
- 基底核(ムクムク)の役割
- 反復と報酬によって強化された行動を自動化する。慣れた道を守るのが得意だが、報酬や環境の変化があれば新しい道も覚えられる。
- すれ違いが起きる理由
- 前頭前野は疲労やストレス、睡眠不足などで働きが弱まると、意識的な選択が難しくなる。そのとき基底核の自動化が優勢になり、習慣的行動が自然に出やすくなる。 逆に、前頭前野が十分に働いているときは、新しい行動を選びやすくなる。
まとめ(第2章の要点)
- 習慣と意志力は敵ではなく、状況によって優勢が入れ替わる。
- 前頭前野が新しい選択を導き、基底核が繰り返しと報酬で自動化する。
- 疲労やストレスで前頭前野が弱ると、基底核の習慣が自然に前に出る。
- 習慣の上書きには「新しい選択+繰り返し+報酬」が必要。
こうして、ムクムクとトウヤはすれ違いながらも、互いに補い合って脳の森を歩いている。 その会話は、あなたの毎日の中でも静かに続いているのかもしれない。
3.すれ違いをほどく
~役割の理解~
「はじめまして。ぼくは前頭前野。
名前はトウヤ。
朝の静けさの中で、そう名付けられた気がする。
選ぶこと、考えること、やめること…
そんな “ちょっと面倒なこと” を担当してる。」
—
前頭前野は、静かな泉のほとりに座っている。
その水面には、今日の予定、やりたいこと、やめたいことが映っている。
「ぼくはね、朝の静けさが好きなんだ。 その時間だけは、ムクムクより先に動けるから。」
でも、夕方になると、前頭前野は少しずつ疲れていく。
「選ぶって、エネルギーがいるんだ。だから、ぼくが弱ってるときは、ムクムクが代わりに動いてくれる。」
ふたりは、しばらく静かに歩いた。
そして、トウヤがぽつりとつぶやいた。
「ぼくたちは、けんかしてるわけじゃない。ただ、タイミングが合わないだけなんだ。」
「ぼくは、選択と変化を導く係。 ムクムクは、繰り返しを守る係。 役割が違うだけで、敵じゃないんだよね。」
ムクムクは、うれしそうにうなずいた。
「うん。ぼくたち、協力できるかもね。」
—
あなたの中にも、ムクムクとトウヤが住んでいます。
いつもの道を守ろうとする声。
新しい風を感じてみたい気持ち。
そのふたりが、すれ違いながらも、 少しずつ歩調を合わせていくとしたら…
今日、あなたはどちらの声に耳を傾けますか?
まとめ(第3章の要点)
- 前頭前野と基底核は役割が異なるが、補い合う関係。
- 前頭前野は「新しい選択」を導き、基底核は「繰り返しを自動化」する。
- 疲労やストレスで前頭前野が弱ると、基底核が優勢になる。
- 習慣の上書きには両者の協力が必要。

4.脳の中のバトンリレーと協力プレイ
夕方、ムクムクはいつもより元気だった。
「この時間は、ぼくの出番なんだ~」
そう言って、スマホの道をスイスイ進んでいく。
トウヤは、少し後ろで立ち止まっていた。
「今日は、決断が多かったな…ちょっと疲れたかも。」
🌿バトンリレーのしくみ
- 朝はトウヤが優勢
- 睡眠で回復した直後は、前頭前野の働きが比較的安定しているため、意識的な選択や新しい行動がしやすい
- 夕方はムクムクが優勢
- 疲労や集中力の低下で前頭前野の制御が弱まると、基底核の自動化された習慣が自然に前に出る。
- ストレスや睡眠不足の影響
- 前頭前野の機能はストレスや睡眠不足でさらに低下しやすく、その結果、習慣的行動が優勢になる。 ただし「必ずそうなる」という単純なものではなく、動機づけや報酬期待なども影響する。
トウヤは、ムクムクの背中を見ながらつぶやいた。
「ぼくが弱ってるとき、ムクムクが守ってくれるのはありがたい。
でも、たまには違う道も歩いてみたいんだ。」 ムクムクは、振り返ってにっこり笑った。
「じゃあ、元気なときに教えてくれたら、ぼくも覚えるよ。」
ふたりは、バトンを渡しながら、脳の中を旅している。
その旅は、毎日少しずつ、形を変えていく。
ムクムクとトウヤは、バトンを渡しながら毎日を過ごしている。
でも、ふたりがすれ違うこともある。
「この道、もうちょっと変えたいな…」
「えっ?でも、いつもこの道だったよ?」
そんな時こそ、ふたりの“協力プレイ”が光る。
トウヤが新しい道を選び、 ムクムクがその道を覚えていく。
それは、脳の中の小さなチームワーク。
今日もふたりは、少しずつ歩調を合わせながら、 新しい習慣の森を育てていく。
協力プレイ
~新しい道を育てるふたり~
ある朝、トウヤはムクムクにそっと声をかけた。
「ねえ、今朝は、スマホじゃなくて散歩に出てみたいんだ。」
ムクムクは、ちょっと不安そうな顔をした。
「うーん…その道、まだぼく覚えてないんだよね。 昨日も、一昨日も、スマホだったし…」
トウヤは、やさしく言った。
「うん、だから今日は、ぼくが先に歩いてみる。ムクムクは、あとからついてきてくれたら、それでいいよ。」
ムクムクは、少し考えてからうなずいた。
「わかった。じゃあ、ぼくは後ろで見てるね。」
—
その日、トウヤは散歩道を選んだ。
朝の光、風の匂い、足の感覚。
ムクムクは、静かにその様子を見ていた。
「なんか…いいかも。」
ムクムクは、ぽつりとつぶやいた。
🌿習慣の書き換えのしくみ
- 最初は前頭前野(トウヤ)が選ぶ
意志力を使って新しい行動を始める。 - 繰り返しと報酬で基底核(ムクムク)が覚える
行動が繰り返され、そこに小さな満足や報酬が伴うと、基底核の回路が強化されて自動化される。 - ふたりの協力が必要
前頭前野が新しい選択を導き、基底核がそれを定着させる。どちらか一方だけでは難しい。
朝の光の中を並んで歩きながら、ふたりは少しずつ歩調を合わせていく。
新しい道は最初は細く不安定でも、繰り返しと報酬が揃えば、やがて安心して歩ける“習慣の道”になる。
「明日も、この道を歩いてみようか。」 トウヤの声に、ムクムクはうなずいた。
「うん。ぼく、ちょっとずつ覚えてきた気がする。」
こうして、脳の中のバトンリレーは、毎日少しずつ形を変えながら続いていく。

5.習慣は味方になる
ある朝、トウヤは目を覚ました。
あれから、ムクムクと一緒に何度も同じ散歩道を歩いた。
今日は、ちょっとだけムクムクに任せてみようと思った。
「ムクムク、今日もあの道、覚えてる?」
トウヤが聞くと、ムクムクは胸を張った。
「もちろん!昨日も一昨日も歩いたもん。ぼく、ちゃんと覚えたよ。」
トウヤは、ほっとした顔でうなずいた。
「じゃあ今日は、ぼくは少し休むね。ムクムク、よろしく。」
ムクムクは、うれしそうに歩き出した。
その道は、もう “新しい道” じゃなかった。
ふたりで育てた、安心の道だった。
🌿習慣は育てられる
- 最初は意志力が必要
新しい行動を始めるときは、前頭前野(トウヤ)が強く働いて選択や抑制を行う。 - 繰り返しと報酬で習慣が定着
行動が繰り返され、そこに小さな満足や報酬が伴うと、基底核(ムクムク)の回路が強化されて自動化される。 - 習慣は信頼できる“味方”になる
一度定着した習慣は、前頭前野が疲れていても自然に行動を支えてくれる。 ただし、習慣は「完全に消える」わけではなく、古い習慣も残りやすい。新しい習慣が優勢になるには、環境の工夫や報酬の調整が必要。
あなたの中のムクムクも、 新しい道を覚えたがっているかもしれません。
最初はトウヤが がんばって、そのあとムクムクにバトンを渡す。
その道は、あなたの中でも少しずつ育っているのかもしれない。
6.小さな実験室
~あなたのムクムクとトウヤに出会う日~
ムクムクとトウヤの物語は、あなたの中にも流れているかもしれません。
朝、スマホに手が伸びるとき。
夜、なんとなく同じ動画を見てしまうとき。
それは、ムクムクが守っている“いつもの道”。
でも、ふと「ちょっと違うことしてみようかな」と思う瞬間。
それは、トウヤがそっとあなたにささやいている。
—
🌿今日からできる、小さな実験
朝の10分、トウヤに選ばせてみる
→ スマホの前に、窓を開けてみる/ノートを開いてみる
(新しい行動は前頭前野が選び、繰り返すことで基底核が覚えていく)
ムクムクが守ってる道を見つけてみる
→ 「いつもこの時間はこうしてるな」と気づいてみる
(習慣は“手がかり(cue)”と結びついて起動するので、まずはその合図を観察する)
ふたりに名前をつけてみる
→ 自分のムクムクとトウヤに、好きな呼び名をつけてみる
(擬人化は脳の働きを理解しやすくし、習慣の仕組みを身近に感じられる)
習慣と意志力の関係
- 習慣は敵ではなく、効率化の仕組み。
- 意志力は「新しい選択」を導くが、疲労やストレスで弱まることもある。
- 習慣の上書きは「古い道を消す」のではなく、「新しい道を優勢にする」こと。
- そのためには、繰り返し+報酬+環境の工夫が必要。
ふたりが手を取り合えば、あなたの毎日は少しずつやさしく変わっていく。
今日、あなたのムクムクとトウヤは、どんな会話をするでしょう。
小さな実験室は、あなたの脳の中にすでにある。
その扉を、ほんの少し開けてみるだけでいい。
「次の一歩は、どんな道にしようか?」 トウヤの声に、ムクムクが静かにうなずく。
「繰り返してくれたら、ぼくが守るよ。」
こうして、あなたの中の小さな実験は、今日から始まります。

コメント